サッカー界の「レジェンド」サー・ボビー・チャールトンが設立し、デビッド・ベッカムはじめ多くのプロを輩出した、イギリスの少年サッカースクール「ボビー・チャールトン・サッカー&スポーツ・アカデミー(Bobby Charlton Soccer and Sports Academy / BCSSA) 」 。

世界中からサッカー少年少女が集まる1週間の夏休み合宿「サマーレジデンシャル(Summer Residential)」を紹介するブログです。2016年の募集は終了しました。2017年分は予約可能ですが、日程と価格は今秋の発表予定です。


2013年7月25日木曜日

サッカー3億年 ~ 水・恐竜・産業革命

以前の記事で、マンチェスターの水は硬度がさほど高くなく、水道水をそのまま飲用にできると書きました。

同じイングランドでも東南部のロンドンと中西部のマンチェスターでは水の質が異なります。

水質の一つの基準に「硬度」というものがあります。硬度とは水にどれだけカルシウムとマグネシウムが含まれるかを示す指標です。ミネラルウォーターにも記載されてますし、アクアリウムで魚を飼っている方には常識ですので、ご存知の向きも多いかと思います。

この軟水と硬水を分ける大きな要因は「地層」です。

地上に降った雨は地表を流れて川になったり、地面に染みこんで地下水になったりしますが、その過程でカルシウムを含む鉱物に触れれば、それが水に溶けることで硬水になる、という理屈は簡単におわかりいただけるでしょう。

イギリスでは「チョーク層」という地層がその役割を果たしています。

「チョーク」はあの黒板に文字を書く、あのチョークです。チョークは炭酸カルシウムからできています。

チョーク層の組成も炭酸カルシウムを多く含んだもので、ドーバー海峡でヨーロッパ大陸側からイギリス側を見ると白い地層が露出しているため、古来からブリテン島を「アルビオン(ギリシャ語で白)」と呼んでいたそうです。

http://www.flickr.com/photos/fanny/555925/  CreativeCommons BY-SA 2.0


チョーク層は円石藻という種類の植物プランクトンの堆積(単純な堆積でなく捕食後糞となることが必要らしいです)によってできたものですが、この層は年代を特定する指標としても使われています。およそ1億5000万年~6500万年前、すなわち「白亜紀」です。

イグアノドン:昔はゴジラ型の復元でした。
白亜紀といえば、三畳紀、ジュラ紀から続く恐竜時代。

そしてイギリスといえば、マンテルのイグアノドン発見に始まる恐竜学の発祥の地であり、メアリー・アニングの魚竜・首長竜の発見など、様々なエピソードに彩られた土地。古生物ファンにとっては聖地といえます。

ロンドンは新生代第三期と比較的新しい地層の上にあるのですが、南北を白亜紀のチョーク層で囲まれた形になっています。


テームズ川などの主要な水源地は大きなチョーク層帯に近く、自然、水も硬度が高くなります。

Author:AlexD / CC BY-SA 3.0

その北側、ノッティンガム、バーミンガムちかくまでジュラ紀の地層になっています。先のチョーク層の元になる円石藻はジュラ紀にも生息しており、やはり硬水になる傾向があるようです。

一方、イングランド中西部より北、あるいはウェールズ地方になると、三畳紀以前の地層が多くなります。とくにニューキャッスルからマンチェスター、ノッティンガムあたりまで広がるのが「石炭紀」の地層。その名の通り石炭が多く取れる地層です。

石炭はその当時栄えていた大量の植物が化石になったもの。そのほとんどが炭素で構成されています。まだ円石藻が栄える以前の時代ですので、炭酸カルシウムはさほど含まれず、その地層を通る水に溶け出すことはなく、硬水にはなりません。

このように、それぞれの地方の地質によって水の質が違ってきます。

ときどきイギリス=硬水という情報が散見されます。首都ロンドンだけ見ればまったくその通りなのですが、イギリス全体でみると一概にそう言えないことはご理解いただけたのではないでしょうか。



さて、イングランド中部に広がる石炭紀の地層ですが、18世紀の産業革命で発達した地域とだいたい重なるのにお気づきでしょうか。

産業革命ではまず紡績業が発達しましたが、その発展の基礎となったのが織機を動かす蒸気機関です。その蒸気機関の燃料は石炭。大量の石炭を消費するためには供給も潤沢でなければなりません。

このイングランド中西部はまさに「石炭の宝庫」。元々織物産業が盛んな土地で燃料も潤沢に確保できるわけですから、産業革命の中心になるのは自然なことだといえます。

そして、その産業革命をきっかけに、大きく発展した2つの都市があります。

紡績業の中心都市マンチェスターと、製品積出港のリバプールです。

これらの都市では、労働者人口が爆発的に増加していくわけですが、都市の発展のためにはインフラ、教育の整備なども必要になってきますが、「娯楽」や「スポーツ」も重要なポイントになります。

その頃の人々の人気を集めたもののひとつが「フットボール」、日本で言う「サッカー」です。

その後のサッカーの歴史については別に譲るとして、イングランド中西部に伝統クラブがひしめく原点は産業革命にあり、その産業革命も3億年前の植物の化石なくして成り立つものではありませんでした。


そういった意味でサッカーには3億年の歴史があるというのはちょっと強引でしょうか(笑)。

それにしても歴史や地理の奥深さを改めて認識します。

こういったことはイギリスに限らず、我々の住む日本でも言えることです。住んでる場所の地理と歴史、産業や文化との関係を調べてみるのも、夏休みの研究としていいかも知れませんね。


参考:

・英国地質調査所(British Geological Survey)http://www.bgs.ac.uk
 Flashが必要ですが、カスタマイズできるきれいな地質地図が見られます。

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